たびっと倶楽部の旅ふれあいマガジン
22号H14.10.26発刊
 
 フランスの田舎を旅する
サント・マリー・ド・ラ・メール
サント・マリー・ド・ラ・メールの巡り方
 安い食材を高く買った話
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佳作 地球の裏側にいる友人たち―メキシコ子連れ旅行顛末記―


都会の喧噪から一歩足を踏み出し
旅情誘う田舎を訪ねる。
「海の聖マリアたち」という名の村には
伝統と祭り、民話があった。
故郷を愛する人々の信仰と生活、笑顔があった。

芳賀八城(はが やしろ)
プロフィール●写真家・エッセイスト
1960年東京生まれ(社)日本写真家協会,日本旅行作家協会所属 
慶應義塾大学商学部、東京工芸大学短期学部写真技術科卒業
イタリア、フィレンツェに4年間、フランス、ニースに4年間滞在。祭りや風土を撮影、執筆し、雑誌、ガイドブックなどに発表。著書に「イタリア生活あるでんて」訳書・写真提供に「イタリア人はなぜくよくよしない」(共にKKベストセラーズ)がある。
 
 

 都会で車の騒音を聞き、せわしない生活をしていると、田舎ののどかな空気を胸一杯吸いたくてたまらなくなる。南仏のニースに住んでいたときも、ミステリアスないわれの残る小さな村を見つけては訪ねていた。二度、三度、フランスを訪れた人なら観光都市よりも、もっと濃いフランスを求めて田舎の小さな村を訪ねたくなるにちがいない。

 サント・マリー・ド・ラ・メール。訳すと海の聖マリアたち。そんな旅心を誘われる名前の村がプロヴァンスの南、ローヌ川河口の湿原地帯が広がるカマルグ地方にある。村の名はプロヴァンスに伝わる聖マリアの伝承に由来するという。
 
旅情を誘う村 海の聖マリアの逸話が残る
 

 キリストの死後、エルサレムを追われた3人のマリアがいた。聖マリアは聖母だけではなく、何人もいると知りびっくりした。3人のマリアとは、聖母マリアの妹のマリア・ヤコベ、ヨハネの母のマリア・サロメ、マグダラのマリアだ。帆も櫂も食料すらない小舟に乗せられ、流れ着いたのがこの村だ。その後、マグダラのマリアはサント・ボームへ向かい、二人のマリアはこの地に残り生涯を終える。
 春と秋に、村の由来になったマリア伝承を再現する祭りが行われる。教会に納められた船に乗る二人のマリア像が担がれ海に向かう。旅立つマグダラのマリアを、プロヴァンスの民族衣装をまとった女性とともに見送るためだ。白馬に乗った男たちに導かれ、海に入るマグダラのマリア。白波に打たれ涙を流しながら二人のマリアに別れを告げる。その光景に思わず胸を打たれてしまう。
 サント・マリー・ド・ラ・メールに鉄道の駅はない。アルルからバスで一時間ほど南に行くことになる。途中、車窓を流れるのは青々と育った稲。

ヨーロッパで水田を見ると日本を思い出し、心が和む。カマルグの湿原では稲作が行われ、フランス一の米所となっている。毎年、秋に実る一房の初穂を、白馬に乗った少女がアルルまで届け祝福を受ける行事が開かれる。遠くに目をやれば、飛翔するピンクの鳥が目に映る。フラミンゴだ。この湿原地帯は特別な自然公園として住民の生活が野生動物と共存し、バランスよく保全されている。
 バスが着くのは村はずれの停留所。高くそびえる教会の鐘楼を目指せば、村の中心に着く。村は10分も歩けば一周できてしまうほど小さい。 色鮮やかなプロヴァンス柄の小物を並べる土産物屋が数軒並ぶ通りを歩くと、食欲を誘うサフランの香りがしてきた。 においの主を探ると、レストランの店先に出された直径1メートルはある大鍋。その上には黄色い米と真っ赤なエビが乗っていた。パエリャだ。この地方は古くからスペインへの交流路で、スペインの影響を受けている。

 それにフランスきっての米所となれば、名物料理はパエリャ。においに誘われ注文すると、これが美味い!名物に美味いものあり。
 食後の散策に海辺にでると、小さな港では漁を終えた青年が明日に備え網の手入れをしていた。その上を海風に乗りカモメが舞っている。
湿原地帯のカマルグで実った初穂を、白馬に乗った少女が抱きアルルに届ける初穂祭りが9月下旬に行われる。アルルで出迎えるのは民族衣装を着たアルルの女
 
 
 

二人のマリアの墓所に建てられた教会の鐘楼。青空に向かってそびえる、三連の三角屋根が印象深い

 ガラーン、ガラーン。時を告げる鐘が鳴り渡った。見上げると、石壁をくり抜き付けられた、五つの鐘が並んでいる。その鐘を目指し迷路のような小道を進むと、村の中心にある威風堂々とした教会にぶつかる。のんびりとした村の雰囲気に似つかわしくなく厳しい。それもそのはず、戦乱の時代には要塞として使われていた。教会の脇から入る階段を上がると、見張り台として使われていた屋根に登ることができる。尖った屋根の上に立つと、村の全景と海、そして広がる湿原地帯を一望にできる眺めが開けていた。

 この湿原地帯で伝統を守り生き続けているのが、誇り高き男たちガルディアンだ。ガルディアンとは、フランスのカウボーイ。白馬にまたがり、黒いフェルト帽をかぶり、いずれもよく日に焼けた精悍な顔をした男たちだ。牛や羊、そしてプロヴァンス各地で行われるどう猛な闘牛を飼育している。彼らの晴れの舞台となるのが復活祭に行われる闘牛祭だ。日増しに力強さを増す陽の下に、カマルグの男、ガルディアンが一堂に集まる。中にはまだあどけなさの残る少年の姿も見受けられる。彼らの生活には馬が欠かせない。馬を思いのままに操れなければ一人前の男と見なされない。そんな彼らの日頃鍛えた馬術が、この日に披露される。寸分の隙間もなく馬で壁を作り、牛を囲んで疾走する。また、手に持った花を奪い合うゲームが行われる。馬とガルディアンの息はぴったりと合い、右に左に軽やかなステップを踏むように馬を操る。馬と一心同体の妙技に思わず拍手。
白馬にまたがり疾走するカマルグの男、ガルディアン。復活祭に彼らの馬術が披露される

 季節の節目に行われる祭りから、故郷を愛する人の信仰と生活が伝わってくる。村に伝わるマリア伝承を誇りにし、歴史を伝えていく。また、自然とともに暮らすガルディアンは、伝統的な生活を続けながら、自然と大地の姿を守ってきた。祖先から受け継いだ故郷を、環境を、思いを込めて子孫に残す。郷土愛に満ちたフランスの田舎カマルグ、そこではローヌ川と地中海、そして村人が織りなす物語が続く。

黄色く染まった米と真っ赤なエビが、目にも食欲をそそるカマルグ名物のパエリャ
地中海に沈む夕日。潮騒に耳を傾け紅に染まりゆく空を目にすると、旅に出て良かったと思う時間が静かに流れる

JTWO…日本旅行作家協会。旅行に関する作品や発言の実績がある各界の専門家による団体。「世界旅行文化の振興」を旗印に現在約500名の会員がいる。