たびっと倶楽部の旅ふれあいマガジン
23号H14.12.1発刊
 
 チロルからウィーンへ
五感で触れる自然と美術の旅
チロルからウィーンへの巡り方
あれよあれよのサファリ珍道記
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 ひとつの出会い


あれよあれよのサファリ珍道記
●文・イラスト  ヒサ クニヒコ 
1944年東京生まれ。本業の漫画、イラスト、絵本などのほかにも、テレビのレポートや旅行雑誌などの取材で世界各地をまわる。また、恐竜研究、ラジオコメンテーターと幅広く活躍している。主な著書に『ヒサクニヒコの恐竜研究』(あかね書房)、『恐竜とつきあう本』(偕成社)など多数。
 

なにしろあれよあれよという間の出来事だった。アフリカはケニヤでのことだ。地平線まで続くような直線道路を我々の乗った2台のサファリカーは、気持ちよく走っていた。その時先頭のサファリカーが突然停車したのである。何事かと訝りながらも我々の車もスピードを落とすと、なんと牛の群れが道を横断しようとしている。 先頭の牛が顔をだして我々の車を認めて足を止めた。止まろうとしていた我々のドライバーは、牛が足を止めたので逆にアクセルを力いっぱい踏み込み一気に通り過ぎようとしたのである。一方牛のほうも車が止まりそうだと判断し一気に飛び出したのだ。
その結果はあきらかだ。助手席に座っていた僕にとっては、まさにあれよあれよという間の出来事であった。目の前いっぱいに牛の全身がアップで迫り、フロントガラスいっぱいになったところで、ドーンと衝撃。フロントガラスが割れ、潰れたボディがひざに触れる。まさに危機一髪だった。
 誰も怪我もせずそれはよかったのだが後が大変だ。牛は家畜である。当然持ち主がいる。無事な方の車が、ドライバーと村人を乗せ近くの警察まで行くことになった。ところが、その車が待てど暮らせど帰ってこないのだ。我々の車の前には断末魔のか細い鳴き声をあげる牛と、遠巻きに事件の行方を見守る村人たちがいるだけだ。壊れた車の中でひたすらもう1台を待つ他はない。村人たちは草刈りの途中だったのか皆手に手に刀を持っている。日もだんだん傾いてくる。牛を殺され怒っているに違いない。どんどん不安が増してくるではないか。
そんな不安がピークに達しようという頃になってやっと地平線のかなたからもう1台の車が戻ってきた。どうしたのかと思ったら「いやー、僕等の方が大変でした」と車から降りてきた仲間が言う。なんとスパイ容疑で警察に捕まっていたのだと。同行者の東大教授が好奇心の赴くまま警察の写真を撮ってしまったのだ。警察や軍隊は勿論撮影禁止。結局許してもらったらしいのだが、とんだ記憶に残るサファリになってしまった。