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| トスカーナの田園風景。前方にオリーブの木立ち、右手前に葡萄畑が広がる |
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「Nessun
dorma, nessun(誰も眠りはしないだろう、誰も・・・)」
まだ薄紫色の朝もやの中、パバロッティのテノールが朗々と葡萄畑に響き渡る。
「ちょっと音、大きすぎないかな?」
「いいよ別に、彼の家なんだから」
タローくんはにべもなくそう言うと、年期の入ったテラコッタ色に日焼けした上半身に光を浴びながら、朝ごはんのための木苺をせっせと摘んでいる。
なだらかな黄金色の丘陵地帯、点在する糸杉の並木、右手には葡萄畑、左手にはオリーブ畑。ここはキャンティ・ワインの産地で有名な、中部イタリア、トスカーナ地方だ。
私は一昨日の朝、パリから特急電車で7時間かけてミラノに住むタローくんの家まで辿り着き、翌日2人でフィレンツェへと3時間、そしてさらにローカル線で30分かけてここトスカーナの片田舎、モンテイオーネまでやって来たのだった。はるばる地を這ってという気がしないでもないが、飛行機で一足飛びしてしまっては途中の変化に富んだ景色を見落とすことになる。実際フランス国境からスイス・レマン湖畔を抜けて見あげるシャモニーの山々は、溜め息が出るほど美しい。
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トスカーナと呼ばれるこの一帯は、フィレンツェ、ピサ、シエナなどの比較的大きな都市を含む約300余りの町や村で成り立っている。フィレンツェから50km離れたここモンテイオーネは、タローくんの親友である、やはり在ミラノの広告マン・マキシミリアーノくんの御実家・ボンシニョーリ家によって長く統治され、現在でもその土地の多くが一家の管理の下にある。ここで栽培された葡萄で作ったワインやグラッパ(葡萄の絞りかすを発酵させて蒸留したリキュール)、オリーブオイルには、「ボンシニョーリ」の家紋がうやうやしく付けられている。ということで、眼前に広がるこの絵に描いたようなトスカーナの田園風景は、彼「マキシミリアーノくんの家」なのだ。
「もうこのくらいでいいね」。タローくんは皿にこんもりと摘み取った木苺を満足気に見せる。木苺だけでない、日本では余り見られない黒苺の実もたわわに生っている。少し丘を下った所にはトマトも栽培され、真っ赤な実が朝露に濡れて光っている。一昨年ミラノで、ここのトマトを煮詰めて作ったソースによる「スパゲッティ・アル・ポモドーロ」をご馳走になって以来、是非今度はトスカーナに・・・という希望が今回現実となったのだ。 |