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馥郁たる香りに包まれて
シガー談義の愉悦
「シガー(葉巻)をたしなむことは、きわめて精神的な行為なんだ」心理学者の友人は、カウチに深々と腰を下ろし、キャビネットからシガーを1本取り出しながらそう言った。「今から511年前、黄金の国・ジパングを目指したコロンブスはキューバ島にたどり着く。そこで出会ったのがタイノー族が吸っていたコイーバと呼ばれる煙草だった。煙草は宗教儀礼としても使われていたのだから、もともと精神性の高いものなんだ」友人は葉巻の上部(ヘッド)を優雅にカッティング。今度はマッチで下部(フット)をあぶり始めた。「今では煙草といえば、シガレット(紙巻煙草)だが、そもそもは、シガーに“小さい”を意味する接尾語etteをつけたもの・・・」おもむろに2〜3回ふかしたと思うと、繊細で柔らかな煙が周囲に漂う。 |
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「しかし、シガーとシガレットは、ブックとブックレット程に別物なんだ。小冊子をいくら読み飛ばしても、濃厚な書籍の快楽には至らない」
学者の退屈な譬え話もシガーをふかしながら語られると、マフィアのボスのように説得力がある。1本をゆったりと吸いながら20〜30分は話しただろうか。マーク・トゥエインやチャーチルら大の煙草好きの話になった時、シガーを咥えたコロンボばりの名推理がひらめいた。そういえば、精神分析の始祖フロイトも大のシガー好きだったはず。
「もしかして、君の趣味はフロイトへのコンプレックスなのでは?」彼はすかさず話題を変え、嫌煙社会のカリフォルニアで知事に当選したシガー大好きな俳優について語りだした。どうやら、私の質問は、紫煙とともに煙に巻かれてしまったようだ。
(平松 洋) |