| 「お引越し」法要に合わせて、集まって来た遊牧民たち。荷物運びを、けなげに手伝っていた少女 |

| 「テント寺院内部」読経をする場所。まるで、抜け殻のようだ |
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明後日、寺で大きな法要があるらしく、周辺には、多くの遊牧民が集まってきていて、テントが張られている最中だった。ある者は馬に乗り、ある者は家畜を引き連れ、一家総出で移動してきていた。3〜4歳の子供までが、はりきって荷物運びを手伝っている。その姿が、なんとも微笑ましい。
寺院は、箱型の小さなコンクリートの建物がひとつと、その後ろに、15m四方くらいの、柱が8つあるテントの寺院がひとつ。その回りには、彼らが寝起きする、レンガで造られた部屋が点在している。
この寺は、チベットでも最大の宗派、最も戒律の厳しいゲルク派であり、ここを訪れた日本人は、私たちが初めてのようであった。
交渉も成立し、寺の内部に案内してもらうことになった。テントの中に入ると、内部は外の光が白布越しに射し込み、思っていた以上に明るい。中央には、彼らが毎朝、まだ冷え込む時分から読経しているであろう、身体に巻く毛布が、丸く人が抜け出た形そのままに並んでいた。そう言えば、彼らは、8月だというのに、フェルトと毛でできたブーツを履いている。この辺りの冬の厳しさが、容易に想像できた。
「ここで、お経を読むのね?」
ぞろぞろと、大勢の僧侶たちを後ろに従えて、身振りで聞いてみる。2〜3人が黙って頷く。なんでも質問してくれ、と言わんばかりの顔だ。
一番奥に3m四方ほどの祠があった。中は真っ暗だ。中央のバター灯、チューメがかろうじてほのかな光を放ち、暗闇の中で揺れている。異次元に入り込んでしまったかのような空間だ。入ってすぐの所で4人が向かい合って座り、お経を唱えていた。私たちに気がつくと、読経をやめ、にこやかに迎え入れてくれる。
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突然の訪問に恐縮しながら、私は帽子を脱ぎ、中へ入って良いかと眼で尋ねた。皆が黙って頷く。4人の脇をすり抜けて奥へ行くと、きらびやかな祭壇があった。その中央に、小さな仏像が見える。
「これが、この寺で一番大事なご本尊だそうです」
後ろから、トンジュの声がした。
通訳をラサへ戻してしまった今、私たちの中で、チベット語が話せるのはトンジュだけだ。彼が通訳となって僧侶から話を聞く。そして、中国語で教えてくれていた。
彼は、仏像の前に出ると、合わせた手を頭・口・胸と順に下ろしていき、一礼した。そして、ポケットから財布を出し、紙幣をご本尊の前に置いた。
そう言えば、途中寄ってきた小さな寺でも、彼は、常にお布施を置いていたような気がする。佐々木先生が、彼らはこうやって運転手として仕事をしていても、稼いだ分を寺に寄るたびにお布施してしまって、大丈夫なのかね、と言っていたのを思い出した。
「お寺に寄るたびに、そうやってお金を出していたら大変じゃない?」
心配して聞くと、
「いいえ、そんなことはありません」
彼は、はにかみながら答えた。
「私たちチベット人は、祈りは日常です。私たちにとって、生きることは祈ることなのです」
微笑みながら続ける。
「それに、田舎の小さなお寺では、政府の援助なしで、お布施だけやっているところもあると聞いています」
「ふうん」
彼の純粋な顔を見て、なんだかいたたまれなくなった。
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