たびっと倶楽部の旅ふれあいマガジン
27号H15.12.1発刊
 

あこがれの南極大陸へ
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神秘の輝き、幻想的なショーは宇宙からの贈り物
世界の素晴らしき山々


旅慣れた男の一人旅に「割勘詐欺」

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神々の地、祈りの風
上環のお茶屋

旅にまつわるちょっといいモノがたり2〜ハービスPLAZA 店舗紹介
ハービスPLAZA INFORMATION

第6回ハービス旅大賞受賞作品 佳作
上環のお茶屋
ホテルの前の坂道

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 9時30分。ホテルを出ると、朝日が差しこむ緩やかで長く続く坂道がある。街の生活を支える店が両脇に並んでいて、店先では親父が赤い肉の塊をさばいている。八百屋では、大きな編竹篭に新しい野菜がどっさりと積んであり、その向かいの食堂では、点心を蒸す湯気の中で丸っこい顔のおじさんが手招きをしている。
 旅行で一番好きなのが朝。町や住民が起きだして一日が始まろうと動き出した時、自由な時間を持った私たちが見知らぬ町を歩く。その時の期待、開放感が忙しすぎた生活の事を一気に吹き飛ばしてくれる。特に、香港の街は朝が早く、日常の買い物をしながらお母さんやおばあさんたちが、立ち話をしていたり、ステッキを持ったおじいさんが散歩していたり、ワゴンに積み上げられた安い衣料品を掘り出し掘り出し品定めをする人がいたりして、賑わっている。この道が坂になっているせいで、前方にそび えたつ細く高いビル群が、ただでさえ高いのに、更にその細長さを強調する。上ってきた道を振り返れば、私たちが泊まっているホテルが遠くになっていた。2人ともが「これが、香港かぁ!」と、もりもりと元気が出てきて、おしゃべり全開になる。

 この旅行は、私たち夫婦の両親も一緒の家族旅行だ。と言っても、この日は別々の行動で過ごす。親たちはツアーにある観光をし、私たちはその観光をキャンセルして街歩きに出たのだ。昨晩、到着後から熱が出た私は、とてもじゃないけど朝7時の集合には出られなかった。ところがホテルを出て、朝日を浴び体が温まると、すっかり元気になって、この後延々と夜まで歩き続けた。ツアー会社の人をだましたの? と思われるかもしれないけれど、そうじゃない。でもなんでだろう? この街のパワーが私にも伝わってきたのだろうか?
 とにかくよく歩き回るので本当にくたくたになる。でも、その方が街のいろんな場面に出会えて退屈な時がない。場所を変える時に、トラムや地下鉄に挑戦したりすると小さな事で戸惑って、切符を買うのに右往左往、両替するのに銀行を何軒も探したり、パスポートに貼ってある5年前の写真が若すぎて、本人だと確認する為にホテルまで電話されたり、
そんな時に交わす言葉で、私たちが異邦人だという事を再認識させられたりする。わりと狭いこの街だけど、山の手から、地上から、トラムの2階から、香港島から、スターフェリーに乗って、九龍からと様々な角度から見てみると、面白いほどいろんな顔を持っている。街を迷い歩いていると、あっちこっちの筋で市場が開かれているのに出会う。私は市場が大好き。どこででも、出会えば体中の血が踊りだす。
 
 
にぎやかな市場

 小学生だった頃、日曜の朝早くに、父が私と弟を起こしに2階に上がってくる。「朝だ、朝ぁだぁ」と歌いながら。その頃、私たち家族が住んでいた須崎市は、高知の西部にあり、高知市からは汽車で約1時間だったかなぁ。 汽車 なんていうと、皆「電車でしょ?」と言うけれど、その頃まだ国鉄だった線を走っていたのは 汽車 で、 電車 というのは市内に通っている路面電車のことをそう呼んでいた。高知市内で名物なのが、毎週日曜に朝から夕方まで追手筋で開かれる、「日曜市」である。これは、パリのマルシェとほぼ同じ形で、かなりの長さを誇る。何も買わずに、ただぶらぶら歩いてみるだけでも十分楽しめる。
 そして、須崎市やそのほかの地方にも大小様々な 市 が開かれる。父とよく行ったのはとても小さな日曜市で、早朝から開いて昼前には閉まるので、せっかくの休みであろうと早起きをして出かけた。そこでは、朝採ったばかりの野菜や果物、粟、きびが入った餅、巻き寿司など、農家の人がそれぞれの収穫物をビニール製の青いカゴに盛って売っていた。どのカゴも100円、200円程の低価格。店番の人がいればお金を渡して品物を貰う。もし、店番がいなくても、お金を入れる箱が置いてあるので、そこに代金を入れて商品を買う。いたってシンプルだ。ただ、子供心に、お金を入れずに野菜を持っていく人はいないんだろうかと、心配だった。このように代金を箱に入れる方法をとる 無人市 は畑に面した道端でよく見かける。トタン屋根付の売り台には袋詰にした野菜が積んであって、手書きの値札と代金箱が設置してある。

車で走っていて無人市を見つけると必ず「何、売りゆうろう?」とのぞいて、必要なものなら母がスタスタッと車からおりて買いに行く。箱にチャリンと小銭を入れて、どっさりの野菜や、または果物の入った袋を抱えて戻ってくる。農家の人が苦労して収穫したものを良心的な価格で提供してくれるから 良心市 とも呼ぶ。
 いや、もしかすると、私の心配事が当たって、「良心をもって、この取り引き成立させましょう」という、農家からのメッセージなのかも。
 とにかく私の市場好きは折り紙つきなのだ。
 香港の市場は野菜の並べ方や、客と店主の注文のやり取りがダイナミックで活気にあふれている。なんだかやけに騒がしいなと前を見ると、ジャッキー
・チェンの映画さながらな喧嘩の真最中。向かいあう店の男性と女性が、ものすごい剣幕で口喧嘩をしている。相手に遠慮なく攻撃の言葉を投げつける。これ以上騒ぎが酷くならないようにと、体を押さえつけてる人までいて、見入ってしまった。言葉のリズムが映画のようで、こういう場面を見るとワクワクするらしいゲン君は「面白いのが見れた」と、大喜び。
 街の人は、皆質素な格好をしていて、顔つきが私たちとよく似ているので、圧迫感がない。この人たちはあの見上げるほどのっぽのビルに住んでいるのだろう。窓には1年中つけっぱなしだというクーラーの室外機が付いているところ、ベランダを取り付けているところ、洗濯物を干しているところと、生活感が漂っている。歩道には、ゴミも煙草の吸殻も落ちていない。所々にゴミ箱と灰皿が設置されているし、物を食べながら歩いている人がいないからだ。

 
 
つき出た看板、街の風景

 ビルの1階部分はたいてい商店になっていて、私たちの泊まっているホテルがある通りは乾物屋が軒を連ねる。干した海産物や、朝鮮人参などの匂いが一面に漂い、どうしても口ばかりで呼吸してしまうほどである。その中のお茶屋に入ってみることにした。
 店内は薄暗くとても清潔で、細身の店主が愛想良く迎えてくれた。主人の立つカウンターの奥には缶入りの高級茶が陳列されている。香港ドルが少なくなっていた私たちは、透明のケースに入っている手頃な物の中から1斤88元の鉄観音茶を半斤と、半斤16元のジャスミンティーを選んだ。
 計量器で茶葉を量り袋詰めする主人の手つきは長年の慣れを感じさせる確実な動きだ。丁寧に袋を四角に整え、空気が入らないように口を閉じ、最後に袋綴じの機械を使って密閉する。その袋に、「烏龍茶」のシールを貼って出来上がり。
 その時、近所の顔見知りが店に入って来て、2人でおしゃべりを始めた。主人とは対照的に大柄なこの男性は、手にはこれから食べる昼ご飯を持って「どうなの? 調子いい?」てな感じで大声で喋っている。きっと、毎日こうやっておしゃべりをするんだろうな。そんな雰囲気が静かだった店の空気を明るくする。主人は、話を続けながらも、さっきと同じ要領で丁寧に袋詰めをする。空気抜きに十分気を使っている様子を見ると、茶葉は空気を嫌うんだということがよく解る。できた袋に、今度は「毛峰香片」のシールを貼った。これがジャスミンティー。

 プロの仕事は、見ていて気持ちがいい。誰かと世間話をしながらでも、手元はいつでも冷静で確実。こんなにいいお店で買った茶葉は、絶品ものと比べると葉が茶色だけど、香り、味ともに美味しく頂け、お茶を入れるたびに、あの店主のお茶を大切に扱う心を思い出す。
 お茶といえば、あっちこっちで見かけた煎じ薬茶店。店頭に金、または銀色のサモワールがあり「涼茶」「甜茶」の2種を紙コップに入れて売っている。ゲン君が「飲めへんの?」としきりに言うが、絶対に不味いであろう薬っぽい、草っぽい匂いがそこら中に充満していて、避けてしまう。男性の客が多くて、たばこ屋とか、囲碁室のような雰囲気だ。おじさんたちの間で何だかんだと情報交換したりするような場所だと思う。ゆっくりとした時間が流れている。本当に、くさいけど、えいっ! 旅土産に飲もう!
 どっちを飲むか決められず、お茶番をするおじさんに5元を渡すと、カップをひとつ私に差し出した。うわっ、プーアル茶よりずっと濃い色。どんな味かな? 絶対おいしくないはず。そう思いながら、ひとくち飲む。
「苦い!」うわぁ、滅茶苦茶、苦い!
 おじさんに、このお茶はどっちなのと聞くと、「涼茶」の札を指差した。
 後で調べると、涼茶は熱、風邪に効くとありました。おじさん、私が風邪だって分かったのかしら。あまりに苦くて、ちょっとずつしか飲めないけど、あと味はすっきりしていて、苦いのは飲んでる時だけ。結局、飲みきれずゲン君に手伝ってもらったんだけど、彼が、一気に飲みきった後「すごい味やったなぁ」と言ったので、2人で大笑いした。ほんとに、苦かった。

 
 
茶屋の前で、涼茶を飲む私

我が家にやって来た香港風

 下町の食堂で頼んだ食事は、どれも美味しく、安い。そういう安上がりな所にしか行かなかったから、中級、上級のことは分からないけれど、庶民の食を味わうっていうのも、「香港で食べてる」気持ちを盛り上げる。取り皿の上に小さな椀、茶碗と、長くて重いプラスチック製の箸。料理を頼むとかび臭いプーアル茶が白磁のポットで出される。
 日頃イメージしている中華料理よりはるかに薄味、ゴロッと大きな野菜、柚子や生姜などの薬味をうまく使った料理は、どれも新鮮な味で良かった。ただ、どれも、どの店でも量が多くて、残念。私は、1/3の量でもっといろんな種類を食べたかった。食いしん坊なのだ。
 翌日、家族そろって深 で国境越えを体験。夕方には、九龍に戻り大きな看板が突き出た道を歩く。クリスマスの頃から飾られているイルミネーションが点灯されだすと、あたりが徐々に暗くなり、街が夜の顔に変わっていく。今回が初海外旅行の私の母、夜眠れない、なんて言っていたけど、楽しかったと言っていた。ゲン君の母上のコミュニケーション能力には驚かされた。大阪弁で喋っているのに何ひとつ不自由がなさそうなのだ。皆、一緒に来られて良かった。

 スターフェリー乗り場に辿り着いた頃、空はすっかり暗くなっていた。この日どうしても皆に見せたかった香港島の夜景がくっきりと浮かび、みごとな眺めだ。
 あの夜景は、忘れない。深く澄んだ空と水面に浮かぶ光の一粒一粒が、優しく、静かに輝いていた。
 今、大阪で生活をしていて、旅の影響がいくつか根付いている。私たち夫婦は、あの重くてつかみ辛い長箸で食事をし、2つ20円ほどで買った小ぶりのレンゲを愛用している。中国茶は湯呑みで飲むより、お猪口ほどの量をちびちび飲むほうが、断然美味しいなどと思い込んで、楽しんでいる。
 そして、テレビであの夜景が映し出されると、「面白かったなぁ」と、食い入るように見入ってしまうのだ。
 お茶と言えば、あの苦いお茶。あの後、2人して大変だった。ものすごい利尿作用があったようで、同時に急にトイレに行きたくなって大騒ぎだった。鳥肌が立つほどトイレに行きたいのが、あの苦いお茶のせいかと思うと、おかしくて笑いが止まらず、トイレを探し右往左往した。

 
■著者プロフィール 1969年生まれ、大阪在住。主婦