|
 |
「フリーマーケットの意味って知ってる?」
ロンドンの地下鉄ノッティング・ヒル・ゲート駅の古びた木製エスカレーターに揺られながら、彼女はそう言った。フリーはフリーだろ。自由に売り買いできるからじゃないか。「そうじゃないの。フリーは自由や無料を意味するフリー(free)じゃなくて英語で蚤(flea)のことよ。日本語の蚤の市は直訳なの」へぇ〜知らなかった。「でも元々はフランス語らしいわ。パリのクリニャンクールの露天市なんかを、“マルシェ・オー・ピュス(蚤の市)”って呼んでいたのね。蚤がいるような古着なんかを売ってる市ってことで蚤の市。それを英訳したの」
そんな彼女の薀蓄話を聞き流しながら地上に出て、しばらく歩くと、ロンドンで最も有名なアンティークの蚤の市、ポートベロー・マーケットに到着。
「アンティークってね、本当は100年以上たったものじゃないと言わないの。それより新しいとジャンク、最近のものは、ラビッシュっていうのよ」歩道には露店が立ち並び、何軒ものアンティークの店が入った建物が軒を重ねている。
|
 |
どの建物も、小さな間口のわりに、意外と奥が深く、地下1階から地上2、3階まで小さなアンティークショップであふれている。ノッティング・ヒルでの私の恋人は、水を得た魚のようにご満悦で薀蓄は止まらない。
「アンティークはね。人を選ぶの。歴史の中で、人から人へと受け継がれていくでしょ。私たちは、一時期そのアンティークを預かっているだけなのよ。そう考えると素敵でしょ。このエミール・ガレに私、選ばれちゃったみたい」
そう言いながら彼女は私の財布に目をやった。ノッティング・ヒルの恋人の薀蓄攻撃をかわすには、この近くにあるはずの旅行書専門店に行ってガイドブックを買わなくては‥‥。というわけで目下、「蚤」の心臓の私は、蚤の市と骨董の薀蓄を猛勉強中である。
(平松 洋) |