Tabit たびっと倶楽部の旅ふれあいマガジン
29号H16.6.1発刊
Tabit29号  
地球の旅日人
西湖今昔物語
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地球の旅人 西湖今昔物語
中国緑茶の最高峰、西湖龍井茶とシルク、 最近では女子十二楽坊……。マルコ・ポーロも絶賛したという 古都・杭州は西湖という湖を中心にした「壮麗無比な大都会」である――。
旅の案内人
松田 朝子
プロフィール●松田 朝子
1959年東京生まれ。日本旅行作家協会会員。主として女性のための旅行を雑誌、ウェブサイトに執筆。著書は『空飛ぶベビーカー』(東京経済)、『大人も子供も ラスベガスの達人』(山と渓谷社)。
 
 
重なる峰々の山水風景
重なる峰々のグラデーションが山水画の世界へと誘う
モダンな洋館
モダンな洋館は現代風の西湖の姿だ
龍井茶
龍井茶は体脂肪をとり、高血圧、ガン予防にも

深く大地をえぐる湾、街中を網の目のように流れる運河、そして無数の湖。
 水辺の風景を中心に展開する中国・江南地方は古くから多くの詩人、文人に愛されてきた。そんな中、ひときわミステリアスな輝きを放っているのが杭州の景勝地・西湖である。春秋時代の伝説の美女・西施にちなんでその名がついたという西湖は、昔も今も「淡粧濃抹総て相よろし」の風景で人々を魅了し続けているのだ。
 呉の国の王・夫差に溺愛されたという西施は、呉の滅亡とともに消息を絶ったとされる。そんな西施が訪れる人の袖を引くのか、西湖は「去りがたい魅力」で詩人たちの足を止め、多くの漢詩を詠わせた。
杭州の景勝地・西湖
断橋残雪。南側の小島からの道はこの橋で終わる

あずまやでしばし休憩する観光客
散策の間に、あずまやでしばし休憩する観光客
そのゆえんとなるのが西湖の湖畔に広がる「西湖十景」。山水画の恰好の題材になる絶景として、南宋の時代から現代に至るまで、人々を魅了し続けてきた。湖を1周する約15qの遊歩道には、休日ともなると多くの観光客が繰り出し、思い思いに湖の風景を楽しんでいる。このハイキングコースも、十景を前に足を止めたり、途中の茶館で休んだりしながらなら、脚力に自信のない人でも半日もあれば歩けてしまうだろう。
ブラブラと歩いていると、ひっきりなしに聞こえてくるのが、「住宅街にやってくる物売りの車」風の音楽。この正体は遊歩道を循環する電動カートで、歩くのに飽きたらそれに乗る。何台も通るので、いささか間の抜けた音楽が耳についてしまう。  

 湖に目を移すと、対岸のお寺がゆっくり動き出し……、驚いていたらそれは豪華な遊覧船の姿。西湖には大小様々な船が浮かんでいる。そんな遊覧船よりもここでは、水に手が届くぐらいの小さな船の方が先人の気分に浸れる。西湖十景のひとつ「三潭印月」は湖の浮島に造られた3つの石塔。船の上からこの石塔ごしに月を見ると、3つに割れた月が見えるという。こういう趣きは大きい船からでは味わえないだろう。
 西湖を南北に貫く細長い堤防は、宋代の詩人、蘇東坡が築いた「蘇堤」である。1089年、知事として杭州にやってきた蘇東坡は、西湖の湖底に溜まる泥を掘り出し、堤防を築いた。

 
「蘇提春暁」と言われるように、蘇提は霞がかかった春の早朝が一番趣き深いそうだが、堤防を縁取る柳の緑が鮮やかな時期も美しい。
 蘇提を渡り切ったところにある十景のひとつ、「曲院風荷」は、宋代に宮廷で用いる酒を造る醸造所があった場所。当時の醸造の工程が人形や模型などで再現されている「琥珀苑」で、1杯5元の紹興酒を味わう。フルーティーなその飲み口は、「風荷」の名前の由来でもある蓮の花の香りを連想させる。ここの庭園では夏になると一斉に蓮の花が咲き、その香りでいっぱいになるという。
蓮花
湖面を彩る蓮花には引き込まれそうな妖しさが

塔
塔の上から望む西湖は、また違う趣きがある


西湖にはもうひとつの堤防が架かる。「蘇提」の左手に架かる短い堤防は、唐の詩人、白楽天の手によって修復された「白提」だ。白楽天が地方長官として杭州に赴任して来た際に、湖の北側に水を蓄える灌漑目的で築いたのだという。この「白提」に架かる橋は、冬に積もった雪が中央部分から溶け始め、橋が真中で折れて見えることから「断橋残雪」と呼ばれている。ここは、伝説の中で主人公の娘が、彼女を見初める青年と出会った場所だそうである。そんな逸話を聞くと、残雪の頃にここにたたずんでみたくなる。
  西湖は三方を山に囲まれ、残る一方は平野に面している。杭州の中心地につながるその平野部分には、様々な街の風景が見られる。
瓦の端
西湖遊覧
中国では、瓦の端は天を向くようにあがっている(上)。西湖遊覧(下)は、かつてマルコ・ポーロも楽しんだと言われる

木々を飾るライトが幻想的な西湖天地
木々を飾るライトが幻想的な西湖天地
明、清の時代の町並みを再現した「河坊街」には、杭州特産のシルク雑貨を扱う店や漢方薬の店、ローカル色豊かな御菓子を売る店などが通りの両側を埋め尽くしている。 車の通行をシャットアウトした街のところどころに、昔の暮らしを再現した像が置かれ、商店の看板はすべて旗になっている。日が傾く頃にはそれらの黄色い旗が夜空に浮かび上がり、街の賑わいに彩りを添えている。
アーティストたち
湖畔の公園には、アーティストが集まる

 中国美術学院がある南山路周辺には、西湖十景に象徴される西湖のイメージを払拭するかのような、新しい風景が広がる。アーティストたちが集まるおしゃれなカフェや個性的なバーなどが軒を連ね、夜になるとメインストリートはライトアップされ、遅い時間まで若者たちで賑わう。
 南山路から繋がる「西湖天地」は、湖に 面した公園内に、緑陰を縫うように洋風建築のレストランやカフェ、ギフトショップが点在し、
ガーデン・レストランのグリルで忙しく働くシェフの姿や、テラスで龍井茶を楽しむ人々の雰囲気は、欧米のリゾートとひけをとらない。ただ違うのは、木々の緑の殆どが蘇提の上で揺らいでいたのと同じ、柳の木であることだ。
 枝垂れ柳の下で、「昔ながらの西湖十景」と「斬新な西湖天地」が融合している風情を詩に詠むのは、現代の文人の役目だろうか。
ガーデン・レストラン
晴れた日のテラス席は心地よい