ピカソと同じマラガ出身の陽気なハビエルは、私たちのドライバー兼ボディガードである。スペインへ来て3日目の朝。ユーラシア大陸最南端、そして大西洋と地中海を一望できる港町タリファから、対岸のアフリカ大陸を目指し、私たちを乗せたフェリーは出港した。丘の上には、おびただしい数の白い風力発電機が、ジブラルタル海峡を渡る強い風を受け、巨大な風ぐるまのように廻っている。
ハビエルがデッキにもたれながら「僕にとって今日が、33歳にして初めての外国行きなのだ」と嬉しそうに打ち明けた。
モロッコを観光し、陸路でスペイン領セウタに入り、パラドール(国営ホテル)に1泊する予定。モロッコの港町タンジールでは、ガイド氏の案内で古いカスバ(要塞)、迷路のような小路やスーク(市場)を訪れ、イスラム世界を垣間見た。土産物店では、ハビエルだけが、買い物をしていた。
ガイド氏と別れると、運転しているハビエルが「モロッコ人にはビックリしたョ。あんなに拝金主義だとは思わなかった。僕たちとは大違いだね」と真剣な表情で、つぶやいた。途中何度か道に迷いながらも、日没前に国境へたどり着いた。セウタに一歩入った途端「ビバ!エスパニャ。我祖国に帰ってきた」と両手を大きく広げて、ハビエルが叫んだ。わずか半日でも、外国人を連れての初めての異国。かなり、気を張っていたのだろう。翌朝は風が強く白波の立つ天気となり、一等船室でも椅子からころげ落ちそう。大揺れの中、小一時間でスペインに帰り着いた。
下船準備をしていると、ハビエルが真青な顔をして「僕は気分が悪くて、ずっとトイレで過ごしていたんだ。 生まれて初めての船酔いだけれど、大丈夫。ちゃんとマラガまで運転できるから」とプロらしく言うのである。
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| その言葉通り、私たちをホテルまで送り届けてから、奥さんと子供の元へと帰って行った。きっと折に触れ、彼は初めてづくしの外国行きを、思い出しているに違いない。 |
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