Tabit たびっと倶楽部の旅ふれあいマガジン
31号H16.12.1発刊
Tabit31  
地球の旅日人
南仏プロバンスへ

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南仏プロバンスへ
 どんよりした冬空のパリを逃れて南仏プロバンスへ。
そこには信じられないほどの青い空とまぶしい陽光が踊っていた。ガリア・ローマ時代の遺跡が数多く残るニーム、地中海に面した広大な湿地帯の自然保護区で放牧されている白い馬たちに出会えるカマルグ、ゴッホに200枚もの油絵を描かせたアルル……プロバンスには季節を問わず鮮やかな色があふれている。
 
小山 登喜子 (旅行作家)
小山 登喜子 (旅行作家)
日本旅行作家協会会員。大学卒業後(株)主婦と生活社に入社。
「週刊女性」編集部で長年旅とレジャーページを担当。1998年独立して(有)キャロットブックス社代表取締役。NHK総合テレビの「首都圏いきいきワイド」コメンテーターなどを務めた。現在月刊誌「馬術情報」の編集制作。旅のコラム、随筆、翻訳などで活躍。ライフワークとして「馬」に取り組んでいる。

ピニヨンの合図に応えて踊る馬たち(撮影:小山登喜子)
ピニヨンの合図に応えて踊る馬たち(撮影:小山登喜子)
大雪のパリを逃れて
 2004年の元旦、パリは大雪に見舞われていた。普段なかなか東京では会えない友人がたまたまパリに来ているので、それなら2人ともヒマな元日に会って食事でもしましょうという約束をしてあった。ところがこの大雪でパリ周辺の交通は寸断され、友人とは会えずじまい。私はどんよりとした雪空を眺めながらひたすら心配していた。というのは、1月2日早朝、南仏ニームに住むジャン・フランソワ・ピニヨンという天才的な馬の調教師の家を訪れるアポを取ってあったからだ。彼とてその日しかあいていない。
 翌日、かろうじて運転再開したTGVはパリ・リヨン駅を発車、南へ向かった。車窓からの風景といえば、どんよりした空と積もった雪、雪を重そうに頂いた木々が倒れそうになって車窓に迫り、列車はしばしば運転を中断する。ニームまではパリからTGVで約3時間の道のりだ。これでは、運よくニームに着いても薄暗くて屋外での撮影はできまい、と私は不安が消えない。
 ところが、列車がヴァランス駅に滑り込むと風景が一変した。空は紺碧に変わり陽光がまぶしい。ニーム駅に降り立つころには先ほどまで不安だったことすら忘れるほどの澄み渡った青空の下で、樹木も鮮やかな緑の葉をそよがせていた。この温暖な気候を求めて人々はプロバンスを慕うのだなあ、と実感があった。

紀元前1世紀アウグストゥス帝の時代に建てられたメゾン・カレ(写真提供:フランス政府観光局)
紀元前1世紀アウグストゥス帝の時代に建てられた
メゾン・カレ(写真提供:フランス政府観光局)

馬の天才アーティスト、
ジャン・フランソワ・ピニヨン


 ニーム駅にはピニヨン夫人が2歳になるニナちゃんを連れて出迎えてくれた。厩舎のある自宅まで車で約30分。南仏アヴィニヨンでは毎年伝統の馬のお祭りがあるので、ピニヨンはじめ馬のアーティストたちは南仏を本拠地にする人が多い。2005年3月から5月まで長期にわたって東京木場公園で騎馬オペラの公演をする「ジンガロ座」も元はアヴィニヨンで旗揚げした馬を連れたキャラバン隊なのである。
 「ニームのような気候の良いところに住めてうらやましい」と私が言うと、「でも昨年は洪水で家は水びたしになって、木もたくさん倒れたのよ」と夫人。良いときばかりではないようだ。
 ピニヨンの「馬の芸術」に関しては詳しく書くページのゆとりがないが、彼は鞍や手綱を使わずに裸馬と心が通じることができ、馬たちは全力を尽くして芸を見せる。ヨーロッパにはいろいろなタイプの馬のアーティストが存在するが、ピニヨンは34歳にして全欧で5本の指に入るほどの評価を得ている。
 厩舎の外の放牧場で、ピニヨンが出す目にとまらないほどの合図に応えて、白馬たちが踊ったり、寝たり、立ち上がったり……撮影は快調に進んだ。
 ニームはフランス最古のローマ都市と言われ、至るところにガリア・ローマ時代の遺跡が点在している。紀元前1世紀末に建設された円形の古代闘技場は、剣闘士が猛獣と死闘を展開する大舞台で、それを見物するのはローマ時代の市民のレジャーだった。保存状態がよく、最上部の屋根付きの回廊まで上がると闘技場の内部やニーム市街が一望できる。他の見どころはメゾン・カレ。アテネのパルテノンに似た寺院で、フランスに残るローマ遺跡の中では最も保存状態が良いと言われる。
 ところで私たちがはいているジーンズの「デニム」という言葉は“ニームから”の意の「De N芭es」から来ているのをご存知だろうか。中世、織物産業が盛んだったニームからアメリカに渡った丈夫な布地が開拓時代に男たちのジーンズとなり、言葉が今も生きている。
 ニームからモンペリエに向かう途中にエグ・モルトがある。エグ・モルトとは死んだ水という意味でローヌ河畔に築かれた中世の町である。聖王ルイ9世が十字軍遠征のための港として使用するために築いた都市で、中世の可愛らしい町並みが保存され、テーマパークのように楽しい。コンスタンス塔に上がって見下ろすと細い水路が一本通り、文字通り「死んだ水」のような色をした沼地の景観が目の下に広がっていた。エグ・モルトはカマルグの大湿原地帯の一角にあたる。
現在は闘牛やコンサートの会場になっている古代闘技場
現在は闘牛やコンサートの会場になっている古代闘技場
(写真提供:フランス政府観光局)

カマルグの馬とうなぎと米

 ピニヨンの厩舎にもカマルグホースが繋がれていたが、カマルグは大ローヌ川と小ローヌ川が地中海に注ぐ三角州の湿地帯。巨大な自然保護地域が広がり、野生に近いカマルグホース4000頭、フラミンゴ、カモメ、セキレイ、鵜など鳥類もたくさん生息している。私が数年前に訪れたときは夏の真っ盛りで、気温は35度を超し、照り返しと草いきれの草原で蚊やブヨに攻められ大変な思いもしたが、見渡す限りの水田(日本の田んぼと違って仕切りがない)や雪山のような様相を見せる大規模な塩田(サラン・ド・ジロー)など自然の大きさに圧倒された。カマルグはうなぎが名物で、大きなうなぎを薪のストーブで丸ごとグリルし、レモンを滴らせて食べる。付け合わせは蒸したカマルグ米……やはりうなぎは備長炭で蒲焼きがよろしいようである。
 カマルグにはプロバンスらしい南国的な白いホテルに白馬を繋いだ貸馬屋が点々とあり、レジャーシーズンには、「馬のシャンゼリゼ」と呼ばれるほど、大通りを白馬の行列が往来する。
 アルルかサントマリー・ド・ラ・メールがカマルグの入口にあたるが、アルルはニームと並んでローマ時代の遺跡が多い。ゴッホに200点以上の油絵を描かせたアルルの魅力も探ってみたい。療養していた市立病院は今「エスパス・ヴァン・ゴッホ」となり、その四角い庭には入院中のゴッホが妹に送った手紙に書かれた通りの花々が植わっていて、報われなかった画家を思うともの悲しい。
 このときカマルグを案内してくれた農場主デュラックさんの奥さんは市立病院の精神科のコンサルタントとして働いていた人で、ゴッホが入院していた当時を知っている職員からいろいろ噂話を聞いている。ゴッホから治療のお礼に一枚絵をもらった医師がいて、その絵は長い間倉庫にほうり込まれていたが、今はロシアのエルミタージュ美術館に収蔵されているそうである。絵の裏には「Dr.○○へ」とゴッホのサインが残っているという。
 南仏プロバンスを楽しむなら、白馬に乗るという方法もある。
コンスタンス塔から望むエグ・モルトの町並み
コンスタンス塔から望むエグ・モルトの町並み
(撮影:小山登喜子)
馬と戯れるピニヨン(撮影:小山登喜子)
馬と戯れるピニヨン(撮影:小山登喜子)
「エスパス・ヴァン・
ゴッホ」(写真提供:フランス政府観光局)

  「エスパス・ヴァン・ゴッホ」(写真提供:フランス政府観光局)

・・・・・・ ●Travel Information フランスのめぐり方 

【交通アクセス】
エールフランス(週13便)・日本航空(9便)・全日空(週7便)が成田からパリに向かう直行便を使うのが一般的。
関西空港からはエールフランス(週11便)・日本航空(週7便)がある。鉄道で国内移動の場合、パリを中心として放射状に主要幹線が伸びているSNCF(フランス鉄道公社)を利用しよう。列車で行けない地方の村や町を移動するなら、バスが威力を発揮する。
時間に余裕がある時は、空港や主要国鉄駅でレンタカーを借りる手もある。


【宿泊】
ホテルは規模と設備の違いにより、星無しから4ツ星デラックスまでの6等級に分かれる。どの町もホテルが豊富で、設備の整った大型ホテルから家族経営のプチ・ホテルまで種類もいろいろ。たいてい予約なしで泊まれるが、春の復活祭や夏の観光地は混むため事前に予約しておいた方が無難だ。家族経営の民宿「ロッジ・ド・フランス」は素朴な雰囲気を味わえる。また、時間があれば中世の修道院や貴族の館を改修したシャトー・ホテルにも泊まりたい。

【旅情報】
◇フランス政府観光局
〒107-0052 東京都港区赤坂2-10-9
ランディック第2赤坂ビル9F TEL:03-3582-6965
◇在日フランス大使館
〒106-8514 東京都港区南麻布4-11-44 TEL:03-5420-8800
◇在大阪神戸フランス総領事官
〒540-6010 大阪府大阪市中央区城見1-2-27クリスタルタワービル10F
TEL:06-4790-1500